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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10289号 判決 1968年2月15日

原告 株式会社福入商社

右代表者代表取締役 東日出光

右訴訟代理人弁護士 真木洋

引受参加人 吉田弘

右訴訟代理人弁護士 小林優

破産者泰進精工株式会社破産管財人

被告(脱退)堀之内直人

被告 平手善吉

右訴訟代理人弁護士 平松久生

被告 小暮一男

右訴訟代理人弁護士 小林優

主文

一、原告に対し

(一)  引受参加人吉田弘は別紙第二物件目録(一)記載の建物を収去して別紙第一物件目録記載の土地のうち四八・五二平方メートル(別紙図面(チ)(リ)(ヘ)(ト)の各点を結んだ部分)を明渡さなければならない。

(二)  被告小暮一男は別紙第二物件目録(三)記載の建物を収去して別紙第一物件目録記載の土地のうち四九・五八平方メートル(別紙図面中(イ)(ロ)(リ)(ナ)の各点を結んだ部分)を明渡さなければならない。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、原告と引受参加人吉田弘、および被告小暮一男との間においては、原告に生じた費用の二分の一を引受参加人吉田弘および被告小暮一男の平等負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告平手善吉との間においては全部原告の負担とする。

四、この判決は、原告において主文一項(一)、(二)に限り被告らそれぞれに対し各金一〇万円宛の担保を供するときは、当該被告につき仮に執行することができる。

理由

一、(引受参加人、被告小暮に対する請求について)

(一)  原告が本件土地を所有していること、本件土地上に引受参加人が本件第一の建物を、被告小暮が本件第三の建物をそれぞれ所有して本件土地中それぞれの建物敷地部分を占有していることは当事者間に争いがない。

(二)  よって、進んで引受参加人および被告小暮主張の抗弁につき判断する。

(1)  法定地上権の抗弁

本件土地がもと訴外幕内の所有名義に登記されていたこと、本件第一、第三の建物がもと訴外会社の所有であったこと、昭和三八年二月二八日訴外三和信用金庫のために右土地建物につき抵当権が設定されたこと、昭和三八年八月九日右抵当権実行により本件土地および第三の建物について競売手続開始決定があり第三の建物は被告小暮が昭和三九年一〇月八日競落し、翌四〇年三月一五日競落代金の支払いを了してその所有者となり、本件土地は原告が同年五月二〇日競落し、同年八月二八日競落代金の支払いを了してその所有者となったこと、第一の建物は強制競売により、引受参加人が昭和四一年二月一五日競落してその所有者となったこと、以上の事実については弁論の全趣旨に照らし当事者間に争いのないところである。

被告小暮および引受参加人は、右抵当権設定当時、本件土地の所有者は、登記上は訴外幕内の所有名義となっていたが、真実の所有者は訴外会社であったから、土地建物が同一の所有者に帰属していたものであり、法定地上権を有する旨主張する。

この点に関する堀之内直人の証言中真実の所有者が訴外会社であるとする部分は、その殆んどの部分が同証人の推測によるものでこれをもってその所有者が訴外幕内ではなく訴外会社であったと認めるには十分でない。

他に、本件土地が訴外会社の所有であったと認めるに足りる証拠がないばかりでなく、却って右証言の他の部分によると、本件土地は訴外幕内が、同人名義で訴外日本住宅無尽株式会社から借り受けた二〇〇万円余を資金として買入れたものと認められるのであって結局、登記簿上表示されたところに従って訴外幕内の所有であったものと認めるのほかないものである。

(2)  権利濫用の抗弁

(イ) 原告が本件土地を取得するに際して支払った競落代金が総計九一万八、〇〇〇円坪当り一万三、〇〇〇円であること、訴外会社の破産事件に関連して鑑定人雑賀武四郎が昭和三八年一〇月二四日付をもってなした鑑定によると本件土地の評価額は一四〇万円であったこと、右鑑定当時本件土地上に四棟の建物が存在していたことは当事者間に争いがない。

(ロ) 右争いのない事実によれば、原告が本件土地を時価に比してかなり低い価額で取得したことは認めるに難くないが、右は競売手続によって決定され、競売手続によって取得されたものであって特段の事情のない限り不当に低い価額ということはできず、時価より低い価額で取得したとの故をもって当然に被告らの土地利用を受認しなければならないものということはできない。他に特段の事情の認められない限り被告および参加人主張の事実をもって権利の濫用というのは当らない。

二、(被告平手に対する請求について)

(一)  ≪証拠省略≫によれば本件土地は、原告が昭和四〇年五月二〇日競落し、その所有権を取得したものであることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  本件第二の建物が被告平手の所有に属することは、本件全証拠によるもこれを認めるに足りず、却って、後に認定するとおり訴外平手まさの所有と認められる。

よって被告平手に対し、同人が本件土地上に本件第二建物を所有して、本件土地中、右建物の敷地部分を占有していることを理由に、本件右建物を収去して右敷地部分を明渡せとの原告の請求は理由がない。しかし原告の右建物収去土地明渡の請求は被告が建物を所有する以外の方法で右土地部分を占有している場合にもその明渡を求める請求を包含していると解されるからその点について検討する。

被告平手が本件第二の建物に居住して、右敷地部分を占有している事実については弁論の全趣旨に照らし被告の明らかに争わないところと認められる。

(三)  よって被告平手主張の賃借権の抗弁につき判断する。

(1)  本件土地の前所有者が訴外幕内であり、原告が右訴外幕内より本件土地を取得したことは当事者間に争いがない。

(2)  ≪証拠省略≫によれば、被告平手が昭和三七年一二月一日、本件土地の所有者であった訴外幕内から本件第二の建物を譲り受け、その敷地部分を建物所有の目的で賃借したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3)  ≪証拠省略≫によれば、被告平手が昭和三七年一二月一八日訴外平手まさに対し、同人に対し負担する債務の担保として本件第二の建物の所有権を譲渡し、あわせてその敷地部分を転貸し、同日訴外平手まさが本件第二の建物について同人名義で建物保存登記をなしたこと、昭和三八年一月一〇日訴外幕内が右転貸借を承諾したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(4)  以上認定した事実は、適法なる転借人が土地の上に登記した建物を所有している場合に該当し、この場合建物保護に関する法律第一条により転貸人即ち原賃借人も原借地権をもって、第三者に対抗しうるものと解すべきであるから、被告平手は、地主である訴外幕内から本件土地の所有権を取得した原告に借地権をもって対抗することができ、右敷地部分について正当なる占有権原を主張しうると言うべきである。よって被告平手の抗弁は理由がある。

三、以上述べたとおり、原告の、引受参加人および被告小暮に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、被告平手に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川上正俊)

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